レストランの収益力の改善(メニューの更新と分析)

ホテルのレストランや旅館の夕朝食の提供において、安定した稼働を維持し続けるのは難しいものです。

 一般的には宿泊に食事をパッケージ化した「宿泊プラン」として販売することで、一定の稼働率を確保する手法が多く見られます。ここでどう受注を増やすかといった部分に焦点があてられて、販売経路や販促ツールなどの話に行きつくことが多いように見受けられます。WebやSNSなどのきらびやかなマーケティングが活発な昨今においては、どうしても販売側の視点に偏りがちです。
もちろんそれで補うことができればよいですが、やはり売る側の努力だけでは限界があるのが現実です。

 営業が振るわないレストランや食事処には様々な要因が考えられますが、最も重要なコアの部分は「料理」そのもので、そこにどう切り込んでいくのかが難しいところです。作り手の思いや歴史・伝統、販売価格、お客様の数や層、調理場の機能としての制約、仕入れの課題、人手の問題など様々な要因が複雑に絡み合った結果が今提供している「料理」といえます。

ここで「料理」を商品として考えると、その宿泊施設の普遍的な「ウリ」として通年で提供している伝統のある「定番メニュー」はもしかしたら「代わり映えのしないワンパターン」に陥っている可能性があります。
もちろん食材やコースの料理構成などは季節によって変えているとしても、毎日食べる訳ではないお客様からすると、その変化を感じ取るのは難しいものです。

例えば一般企業における商品の場合は、どのようなモノでも時間の経過とともに必ず陳腐化していきます。これは同じ商品を同じように販売し続けていると、時間の経過にともなって顧客にとっての魅力が薄くなり購買意欲が低下してしまうためです。よって同じ商品に変化を与えず継続的に販売し続けることは、企業として長期的な視点で見るとリスクが高いと言えます。

では、その商品である「料理」をどのようにマイナーチェンジをすればよいでしょうか。

「料理」をよりレストランの具体的な商品群であるメニューと置き換えた場合、メニュー作成の考え方は様々なものがあります。

≪メニュー作成の考え方の一例≫

 ・ 集客の目玉になるオンリーワンの商品を作る
 ・ 売上の主力になる商品を作る
 ・ 店舗のコンセプトにあった料理で統一する
 ・ お客様にとってお得感を提供する
 ・ 無意味な飾りや合わない付け合わせなど無駄なことをしない
 ・ お客様が思わず写真を撮りたくなる盛り付けにする
 ・ 朝、昼、夕それぞれのお客様のニーズに合わせる
 ・ 原価が低くて売れ筋になる商品を作る
 ・ 原価が高くても売価も高く利益額の高い商品を作る
 ・ バランスよく価格差を設けてトータルでみると平均客単価に落ち着く商品構成
 ・ 調理やサービスにかかる人件費が低い
 ・ 提供時間がかかり過ぎない
 ・ 手作りや既製品など生産手法に固執しない
 ・ 新鮮な食材を新鮮なうちに提供する
 ・ 地産地消など地域性を織り込む
 ・ アレルギー対応ができる
 ・ 各種ベジタリアン対応ができる
 ・ ハラールなど各宗派に合わせた対応ができる

どの要素も重要で、どこから手を付けるべきか悩ましいところです。

特に新規オープンであれば一から整理して考えることもできますが、これまでの営業の中での実績を無視して、いきなり何かを変えるには勇気が必要です。
ここで、「これまでの実績」を客観的に数字で分析することを考えます。

例えば以下の表のような追加メニューの商品構成と販売数であった場合にどこに着目すればよいでしょうか。

まずは簡単に出来る分析手法としてABC分析が挙げられます。

ABC分析

ABC分析は料理だけにとどまらず在庫管理やマーケティングなど様々な分野で活用される分析手法です。対象となる項目(商品、顧客、取引先など)を、売上高や利益貢献度などの指標に基づいて3つのグループ(A、B、C)に分類し、それぞれに優先順位をつけることで、効率的な管理や施策の実行を可能にします。

ABC分析の3つのグループ
Aグループ:
売上高や利益貢献度が最も高いグループ。全体の20%程度で全体の80%の売上や利益を占めることが多い。

Bグループ:
Aグループに次いで売上高や利益貢献度が高いグループ。全体の30%程度で全体の15%程度の売上や利益を占めることが多い。

Cグループ:
売上高や利益貢献度が最も低いグループ。全体の50%程度で全体の5%程度の売上や利益を占めることが多い。

これはグラフにすると分かりやすいです。

人気のAグループ、中堅のBグループ、下位のCグループと3つに分類することができます。

人気のAグループは今後も販売に期待ができますので、在庫を切らさないことや、効率よく提供できるオペレーションが重要になってきます。またSNSやHPなどの露出を増やして、さらなる販売数の確保を狙います。売れているからといってそのままにせず、マーケティングなど全社的な後押しが必要です。

中堅に位置するBグループの販売数は少なくはないので、大きく崩さない程度のマイナーチェンジでAグループに昇格させていく努力が必要になります。グラフの「シャーベット」のように他の商品群と異なるものが入っている場合は理由を考えます。参考事例の場合は子連れのお客様がお子様のために追加で注文していることが分かりましたので、子供向けに頼める商品のニーズを深掘りすることができました。

問題になるのはCグループです。一般的なセオリーとして品数が多ければ多いほど売上は高くなるものです。社内会議や外部のアドバイザーから目標達成のために品数を増やせと言われているからと、仕方なく商品を並べているケースが散見されますが、販売数の少ない商品でも食材保管や人的リソースの確保などの見えにくい管理コストが発生しています。
もし「無くても問題はないが、売上が少しでも増えるから並べている商品」であるならば、フルモデルチェンジして新しい商品を投入していくことを考えた方がよいです。

何か新しいことを検討するにも人手不足が先に立つ昨今においては、必要性の低いものはときには切り捨てていく勇気も必要です。維持するだけで手一杯な状況であれば、そこから脱却するためにも不要なものはなくしていきたいところです。

メニューエンジニアリング

ABC分析は売上や販売数など1つの軸で判断する簡易な分析に対して、メニューエンジニアリングは販売数と利益の2つの軸で分析します。ここでいう利益については各商品の販売価格から変動費である原価を差し引いた限界利益で考えます。

上表のように商品ごとに販売数と原価を集計することで、現在の商品構成の中で販売数が多いかどうか、利益が大きいかどうかでそれぞれ順位をつけていきます。上表では“高い”か“低い”でまとめています。

上表から下のようなグラフにします。
*参考用のため上表との数字の整合性はありません

その上で任意に4象限に分割し、それぞれの象限に属する商品群ごとに対応策を講じます。

その名の通りスター選手です。売れれば売れるほど利益も上がり、お客様の満足度も同様に上がっていく傾向が強い商品です。
わざわざ分類しなくても体感的に分かっているような商品であり、そのレストランの誰もが認める看板商品です。余計なことをしなくても十分に利益に貢献しているのですが、スターがさらに輝き続けていくための後押しをするべきです。
特にSNSやHP、広告プロモーションなどでの情報発信によりさらに認知度を高めることや、誰かに話したくなるようなストーリー性を付与するなど、ブランディング化ができるのが理想です。

ABC分析では販売数のような1つの軸で判断するので場合によっては見落としてしまうのが、この象限に属する商品です。お客様に人気なのは素晴らしいことですが、肝心の利益が出ていないのは問題です。

人気を損なわない程度に原価をどう圧縮していくのか。価格転嫁ができればよいですが、それが難しければポーションサイズを落としていくのも一つの手です。

人気が高いがゆえに聖域化しやすい箇所でもあります。例えばランチが大人気でいつも行列が出来ているとしても、販売価格が980円で食材の原価率だけで60%であったらどうでしょうか。そのような場合は販売数制限などで適切にコントロールしていけるとよいです。

この象限の商品群は基本的に改善が必要です。

売れても利益が出ないが、販売数も少ないので影響はないだろうといって放置しておくのは問題です。食材管理などのリソースの確保だけでもロスがあるものと考えたいところです。

対策としては、販売方法などの見せ方を変えて効果があるか試すことや、レシピを書き直すような刷新が出来ればよいですが、人手不足でリソースが足りない昨今においては、お客様への影響が軽微であるならば削除していけるとよいです。

利益が高い商品は主力となるべき商品です。なぜ売れないのかを追求していく必要があります。

お客様への認知度が低いのであればプロモーションなどの販売手法でカバーしていきますが、実際に召し上がったお客様の評価が芳しくない場合は何かがずれている可能性があります。社内の試食会などで意見を集めるのもこの象限に属する商品が適しています。


ここでの分析はアラカルトメニューのようなものでサンプルを作成していますが、ブッフェの各メニューや会席の一品ずつのお料理に置き換えての分析にも応用はできます。

ABC分析もメニューエンジニアリングも今の社内のデータから分析する手法といえます。前提として十分なサンプルの数があったり、メニューごとに原価を算出していたり、一定期間の集計で比較が出来たりといった条件があります。また、競合他社やトレンドなどの外的な要因を考慮せずに内側のデータだけで推察していくので、適切な結論が導き出せない可能性もありますが、社内での判断基準の一助にはなります。

一つの手法に固執せず、様々な切り口で自分たちの実績を客観的に振り返る習慣を付けることは何より重要です。このような積み重ねが意思決定の質を高め、競争力を強化していくことにつながっていきます。