ホテル内のレストラン運営のよくある課題と対策案

新型コロナウイルスによる制限があったのが1年前とは思えないほどホテル業界は活気付いています。訪日外国人観光客の流入は地域によって非常に大きな差異はありますが、お客様が来てくれなくて頭を抱えていた時代はもはや過去になり、逆に今ではたくさん来てくれるお客様をどうやって対応していくのかが課題になってきています。

宿泊部門に関してはシステム構築による省人化のソフトが複数の企業から提示されており、また実際に利用している施設の情報も公開されているものが多いので対策を講じやすいのですが、料飲部門においては参考事例も少なくどこから手を付けていいのかその判断が難しいところも多いのではないでしょうか。

特にホテル内のレストランにおいては業態や席数、用途、営業時間、雇用形態などが様々なため参考になるところも少なく、専門性が高いがために街場のレストランとも比較しにくいところがあります。

ここで一般的に起こりやすい課題とその解決の方向性を探ってみたいと思います。

1. 人手不足

最も大きな課題であり、なおかつ解決が難しい問題でもあります。最低賃金は毎年上昇し、お支払いする給料は上がっているにもかかわらず、働き手の数は年々減少しています。ホテルや飲食業界の不人気さも相まって今や完全な売り手市場になっています。

この部分が解消されない限りは抜本的な改善に着手していくこともできません。

人手不足の問題は以下のような項目に分類できます。

そもそも頭数が足りなくて営業に支障をきたしている

募集を担当者任せにしていませんか。また、短時間バイトなどの雇用形態も旧態依然とした受け入れ態勢のままではないでしょうか。売り手市場の募集には競合他社との比較やマーケティングの視点が重要です。

人数は揃っているが管理適任者がいない

入社時の新人教育は実施していても、管理職の教育はOJTで任せきりになっていないでしょうか。労働環境や法令の改定、各種ハラスメント、SDGs、外国人雇用者などの多様性、管理職は常に知識のアップデートが必要ですが、それを社員の自己努力に任せてしまうには負担が大き過ぎます。

現場は足りないというが売上や利益額から見ると十分過ぎる

オペレーション体制が旧態依然とした人海戦術状態になっていないでしょうか。予約管理、売上管理、顧客管理、販売管理、シフトや労務管理、仕入れ管理などはシステムを使った方が効率的な場合が多いです。また規模にもよりますがホールとキッチンの業務内容が完全に分断していないでしょうか。効率化できることは山ほどあります。

2. レストランを運営する効果が見えない

客室の場合は延べ床面積からどのくらいの売上を見込めて、どのくらいの利益が出せるのかをある程度将来にわたって計算ができるものですが、ホテル内におけるレストランは営業時間帯や運営形態によっては計画を立てにくい場合が多いです。特に対象とするお客様を宿泊客に限定すると利用客は少なくなってしまい、外来客を見込もうとすると不確定要素が大きくなってしまいます。

このままレストランを運営し続けるメリットがあるのか不安になってご相談いただくことも多くあります。

利益がどのくらい出ているのか分からない

費用対効果を算出するためには計数管理が必要不可欠です。まずは売上を集計して比較できるようにします。利益の算出方法は様々な管理会計の手法がありますが、一般的にはユニフォーム会計システムに則った営業利益(GOP)までで十分な場合が多いです。

ベテランのスタッフに任せきりで聖域化して制御できない

長年同じような専門性の高いスタッフ同士で運営していると得てして暗黙知が積み重ねられて属人化してしまう恐れがあります。当人にとっては良いですが、人が入れ替わったりすると何も残らなくなってしまうのは経営的にはリスクです。まずは部署異動や第三者の介入によって、暗黙知を形式知に変えていくための根気強い作業が必要です。

3. 売上が足りない

営業時間や立地、運営形態によって状況は様々ですが、朝食は喫食率が低いので魅力ある食材を揃えられず、ランチは低価格帯のラインナップを用意しないと客足が見込めず、喫茶は繁閑差が激しく、ディナーの件数は宿泊プラン次第になっていることはないでしょうか。お客様の分母を宿泊客や特定の層に固定してしまうと自ずと尻すぼみになってしまいます。

朝食の喫食率が低い

一般的にビジネス客は価格の上限が厳しく、営業時間が早いほど利用されやすくなります。レジャー客の場合はご当地ものなどのメニュー内容次第である程度勝負できます。訪日外国人観光客についてはアジア圏や欧米系で嗜好が異なり、宗教や信条によって対処すべきところが様々です。まずは自分たちのお客様を分析することからはじめます。

利用客を宿泊客の予約に限定している

宿泊客の総数をお客様の母数にすると期待できる売上は限られてしまいます。朝食は難しいとしても、立地次第ではランチやディナーの外来客を積極的に取りに行った方がよいです。一般的に価格帯が高くなるほど商圏は広くなります。レストラン予約サイトも一般的になりましたので活用したいところです。

旧態依然とした営業から変えられない

「朝食の営業時間は7時から」「ランチは1000円以内」「テイクアウトは衛生面が心配でできない」「ディナーは3日前までに予約が必要」「メニューは通年で固定」「メニュー内容の詳細はシェフに聞かないと分からない」「アレルギーや宗教対応ができるかは当日まで分からない」といった状況になっていないでしょうか。固定観念から脱却するためには他社事例を知る必要があります。

4. 経費が多過ぎる

高止まりしている食材原価や資材類、構成比の高い人件費、これ以上節約しようのないエネルギーコスト、効果の見えない販促費、システム保守料、修繕費など経費は毎年増える一方です。自社で運営しているホテル内のレストランは街場のレストランと異なり賃料負担分がないとはいえ、経費が膨れ上がりやすいものです。

原価率が高い

毎月棚卸を実施して仕入れ値から当月の原価を算出できているでしょうか。特に旅館の場合は泊食分離をしていないと計数管理ができなくなります。また複数の仕入れ先の確保、適宜メニューの改定、各タイミングでのロスの計上、レシピ上の想定している原価率と実際原価率との差異の算出などで対処していきます。

人件費率が高い

売上予算とそれに対する人員配置の予算自体が適正でしょうか。売上に対する比率でみると人件費率は割高になってしまいやすいものです。オペレーション自体の課題の場合もありますが、現場が必要以上に手厚くシフトを組んでいる可能性もあるので、管理者は需要予測などの考え方も取り入れた方がよいです。

その他の経費の構成比が大きい

原価率は30%以下に抑えているのに、販促と称して一律10%割引などを実施していたりしないでしょうか。仕入れ先から期間限定で特別価格を提示されて大量購入するもその保管コストを考慮していなかったり、ビアガーデンやクリスマスなどの季節もののために採算度外視で準備したりと費用対効果に見合わない事例はよくあります。

5. ホテルのブランドイメージと合わない

ホテル内でのレストランの運営は宿泊との相乗効果が期待できます。

ただ、例えば朝食の運営の場合でも朝の働き手の確保、高騰した原価の管理、喫食率の低下、ビジネスやレジャー客以外にインバウンド客の嗜好に合わせる必要性があるなどオペレーションの難易度は格段に上がっています。また一般にも認知されてきているホテル価格のダイナミックプライシングの実施状況によっては、これまで金額によってある程度すみ分けが出来ていたお客様の層が混ざり合ってしまい、結果として思わぬ不一致を引き起こしている場合もあります。

ホテルのお客様の利用率が低い

コロナ期間から利用するお客様の層に変化がありましたがメニューや店内もそれに合わせて変えていったのでしょうか。老若男女に合わせた万人受けするメニューは、もしかしたら誰にも刺さらない漠然としたコンセプトになってしまっているかもしれません。何度でも今ホテルに来ているお客様はどのようなお客様なのか見つめ直していく必要があります。

ホテルの客単価が上がってレストランの雰囲気が合わなくなってきた

宿泊単価が上がっているのに、食事の単価が一定ではアンバランスになってしまいます。既存のスタッフでリブランディングできればよいですが、競合店の視察や専門家にアドバイスをもらうなどで知見を広げるところからはじめるとよいでしょう。

6. お客様からの評価が低い

限られた予算、最小限の人員で宿泊客という限られたマーケットだけを向いて長年運営していると、変化のスピードが速い世の中から遅れを取ってしまう場合があります。これまでの伝統を守ることはもちろん重要ですが、お客様から評価されていないものに必要以上に固執することもないでしょう。もちろん過度にお客様におもねる必要もありません。お客様から適切に評価されることを目指すべきだと考えられます。

スタッフがお客様からの評価を振り返る機会がない

アンケートの実施や口コミ評価の回覧などでまずはお客様の評価を知るところが重要です。何かを改善するにもお客様の意見から遠いところではじめてしまうと期待する効果を得られない可能性があります。

近隣からの評判がない(悪い)

ホテルやレストランの運営形態にもよりますが、宿泊客以外の地元のお客様から一定の評価を得ている施設は強いです。記念日や集まり事など何か重要な機会があったら○○ホテルのレストランを利用する、ホテルの公共性だけでなくその存在意義を地域に確立させるためにも地元からの評価は不可欠といえます。

今回挙げたような単純な課題であれば解決の糸口も見つけやすいですが、専門業態だからこそ課題自体が見えにくいという問題もあります。必要に応じて弊社のような第三者機関を利用するのも問題解決における一つの手段です。何かありましたらお気軽にお問合せください。


ホスピタリティマネジメント株式会社